| 怪獣マーチ☆BACK←第十二話→NEXT |
お昼寝から目覚めた怪獣ふたりは、少しぼけっとしていて、それから外に遊びに行ってしまった。元気いっぱい遊んで帰ってくると、今度はおやつの時間だ。太公望は飲み物とお菓子を用意してもらって、二人に出した。 「がっつくでないぞ、二人とも」 そうは言われても、子供が目の前にシュークリームを出されれば、飛びつかないわけはない。天化も発もおいしそうにシュークリームをほおばった。 その様子はいかにもほのぼのとしている。可愛いものだ。 なごんだ太公望は、ふと向こうにいる楊ゼンに目をとめた。楊ゼンはなにやら手を動かしている。 「どうした、楊ゼン」 「せっかくだから絵を飾ってあげた方がいいかと思いまして」 「ほう、それは微笑ましいのう…」 太公望はそう言って、楊ゼンから再び視線を天化と発に戻した。すると喉をつまらせている天化が目に飛び込んでくる。 天化はシュークリームを口の中にほおばって、なかなか飲み込めないようだ。 「て、天化、大丈夫か？」 太公望は慌てて飲み物のおかわりを出した。用意してもらったのはフルーツ牛乳だ。 天化のコップにフルーツ牛乳を注ぎ、天化に渡し、それを飲ませてなんとか口の中のものを喉に流し込む。どうやらなんとかなったようだ。 「おお、よかったよかった。無茶をするでない」 「ぎゅーにゅーもっとのむ！」 「あまり飲みすぎるでないぞ。おなかを壊してはいかん」 「ぎゅーにゅー！」 「わかったわかった」 太公望はフルーツ牛乳のパックを手にとり、天化のコップに注いだ。さて、発はどうしたか。もう一人の子供の様子を太公望は伺う。天化はぐいっとその一杯も飲んでしまって、太公望の見ていないところで、フルーツ牛乳のパックを持っていってしまう。 見ると、発は楊ゼンと共にいた。やはりがんばってシュークリームをほおばっている。そしてどうやら、二人はスケッチブックを見ている。発がいろいろ描いたものだろう。発はシュークリームを食べ終わって、飲み物のコップを傍らに置いていた。そして楊ゼンがスケッチブックを床の上で開いて見せている。 「おとうさんの絵をかざりましょうね」 「うん！」 発は元気よく答えた。楊ゼンはスケッチブックの一枚をびりびりと切っていく。発はじっとそれを見守っていた。 二人の様子を見ていた太公望の視界に天化が再び入る。天化は発の後ろに立った。その手にはフルーツ牛乳のパックがある。 「なにしてるさ？」 しまった。 太公望は、いつのまにかフルーツ牛乳のパックが消えていたことにいまさら気づいた。それは天化が持っている。 床にこぼしたりした日にはまた大変なことになるのだ。 「なあに？」 次の瞬間、天化の声に発が振り返る。 しまった、牛乳パックは無事か？ しかし天化はトロくない。彼はきちんと発をうまく避けて、牛乳パックもちゃんと守った。 太公望はほっとした。ほっとして、発と天化のところへ行く。そして牛乳パックを天化からなんとか取り返した。これで一安心だ。 「なにしてるさ？」 天化は同じことを聞く。発は質問に答えていないからだ。天化の質問には、楊ゼンが答えた。 「せっかく絵を描いたから飾るんだよ。天化くんの絵も飾ろうね」 「かざるさ！」 天化の勢いのいい返事に答え、楊ゼンは発のスケッチブックを床に置き、天化のスケッチブックを手に取る。 スケッチブックが返って来た発は、床に置かれたスケッチブックをじっと眺めた。楊ゼンが切り取った紙が2枚ある。 一枚目は「おとうさん」。二枚目は― 「発、これは？」 太公望は牛乳パックを持ったまま発に問うた。二枚目の紙には稚拙な字で「あんちゃん」と描かれている。 説明してもらわなくても、これが伯邑考の絵であることは太公望にはわかる。だが聞いてみようと思った。 「あんちゃん！」 「そうか、上手だな」 太公望は笑って発の絵を誉めた。そういえばさっきはスケッチブックを見せてくれなかったのだ。でも今は、おとうさんとあんちゃんの絵をちゃんと見せてくれる。さっきは機嫌が悪かったのか？子供の考えることはよくわからない。 「おかわり」 太公望が考えていると、発は小さな手でコップを差し出した。フルーツ牛乳が飲みたいらしい。太公望はそうかそうかと発におかわりを注いでやった。発はコップを抱えて一生懸命フルーツ牛乳を飲む。危うく、飲んでいるものを下のスケッチブックにこぼしそうになったが、発は頑張って全部飲んだ。 「おれっちもおかわり！」 発がフルーツ牛乳を飲んでいるのに気が付いて、天化が後ろから駆けてきて大きな声でリクエストした。 「これ、天化…何杯目だ、おなかをこわすぞ」 「おかわりのむさ！」 天化は太公望の持っているフルーツ牛乳のパックを取ろうとする。 「これ、そんなにひっぱるでない……」 太公望は慌てた。無理矢理引っ張られ、思わず手を離してしまう。 「あ」 天化は、―おそらく、手が滑ったのであろう―フルーツ牛乳のパックを取り落としてしまった。 まだ中身の入っているそれは、発のスケッチブックめがけてゆるやかに落下した。 「………」 ぼとっと鈍い音を立て、牛乳パックはスケッチブックの上に落ちた。薄い色のついたフルーツ牛乳が、スケッチブックの紙を伝って流れていく。 発のスケッチブックはすっかり濡れて汚れてしまった。 駄目になっていくスケッチブック。せっかく描いた絵なのに。発は震え、やがて臨界点を超え、火がついたように泣き出した。 「うわああああああああん！！！！」 |