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ヴィッツでＧＯ！(16)(11/27)
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「…発ちゃん」 姫発が話を結んで、もう一度、コップに酒を注ぐと、天化が姫発の顔を見つめて声をかける。 「………なんだよ」 そういうふうに答えるしかない。バカな話したよなあと思いつつ、姫発はまた、コップの酒に口を付けた。 「俺っちも家出したことがあるさ」 「…はい？」 「俺っちは、中１の時さ。親父と大喧嘩したんさ」 姫発は正直、言葉もなかった。この文脈で、家出トーク対抗するか…こいつ… しかしそこは姫発の方が社会人。大人というべきか。適当に相槌を打ってやって先を促す。 「それで、どこ行ったんだよ、お前は」 「一晩中歩いてたら、箱根にいたさ」 「………」 箱根…どうやって行くんだよ、歩いて！ （それは本人の言うとおり、歩いていったのだろうが姫発にはそれが信じられない） そんな東海道線乗り過ごすわけじゃあるまいし！ 「でも、発ちゃんの方がスゴいさ」 「なんで？」 電車で東京湾を見に行ったのと比べたら、冒険っぷりは徒歩箱根の方が遥かに上だろうが。 「俺っちはなんにも考えねーで歩いてただけだし、発ちゃんは計画性があるさ！」 「それは……」 言葉に詰まる。なんて言えばいいんだろうか、この場合。 「お前は中１だったんだろ？俺は高１だったしさ。きっとその差だろ」 こう言ってしまうと、高校に行ってまで家出していると自分で言ってしまったようで、それはそれで、一気に自分がレベルダウンしたような気すらしてくる。 姫発は一気に脱力した。 「もう寝るわ」 「え？まだ９時過ぎさ」 「明日も早いだろ、早く寝るんだよ」 早くはない。旅館の食事は８時だ（この部屋に持ってきてくれる）。 姫発は布団に入ってしまって、ふっと、再確認するように自分に言い聞かせる。 「あー、明日の朝、ガソリン入れねーとな…」 「ガソリンスタンド行くさ？」 「うん、確か、ココにあったよな」 修善寺の街に入ってガソリンスタンドを見つけた。 「俺っち行ってみてーさ」 「…ガソリンスタンドに？」 相当やる気のない姫発のリアクション。しかし天化はそんな様子をものともしない。 「いっぺん入ってみてーさ」 「そんなモン、これからなんびゃっぺんでも行くだろーが…」 あ、やっぱ明日もハンドルを渡すことになるんだろうな、俺。 「ブツけたらてめえの兄貴に請求するからな、満額」 「ブツけねーって何度言ったら判るさ？」 俺はこんなところまでなにしにきたんだろう。 姫発はしみじみと脱力する。それは、意地でも払い戻すべきだったチケットをキャンセルしなかった報いなのだろうか？ うん、でももういいや…明日鰻食って帰ろう… 蛙はまだ元気よく鳴いていた。 |
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