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「はあ……」 「遅くなって悪かったさ」 天化はそこで、頭を下げた。姫発は経過を聞いてなにも言えない。強い。それだけ思った。やることがすごすぎる。だって一応相手って目上なんだろ？ 「………」 「元に戻れてよかったさ」 ―――え？ 「女の子でもいいけど、王サマはやっぱり元の王サマの方がいいさ」 いつか言われたことが頭をよぎる。 俺っちは、王サマはそのまんまでもいいと思うけど。 あれは殺し文句みたいだったけど、そんなつもりはなかったんだろう。 その時も、思った。 今になってはっきり判った。 天化は――俺が女の子になって、でも俺を女の子だなんて思ったことはなかったんだと。 王サマは王サマで、今ちょっと女の子だけど、女の子だから気も遣ってくれたけど、でも違う。こいつにとって、外側がどうだろうが、俺は元の姫発そのままだった。 本当の意味で女の子として扱ってくれたことなんかなかったんだと。 当たり前だ。だって元は男なんだから。天化が持っている杏を食べたら、元に戻るっていうんだから。 天化は、自分が作った杏仁豆腐のせいで、俺が女の子になったことを気にしていて、責任も感じてくれた。だから優しかったし、今だって、結婚式をやってしまう前に俺を男に戻そうと思って、教会まで走ってきてくれた。 俺のためにそこまでしてくれたんだ。姫発は自分にそう言い聞かせた。天化は、「国のために結婚したくない」と泣いた自分のために、単身崑崙まで行った。 雲中子って奴のところに押し掛けて、師匠に宝貝まで借りて、脅して、解毒剤を作ってもらった。そこまでしてくれた。 約束を守ってくれた。必ずなんとかしてやるから待っていてほしいと言って、ちゃんとその通りにしてくれた。 …カッコいいじゃん。俺が女なら惚れるって、それ。 訳の分からない発想が頭をよぎって、その後、俺はホントにあのまま教会から連れだしてもらってもよかったんだと気づいた。バカな発想だよな。天化は、そんなつもりで言ったんじゃなかったのに。 でも俺は、あれからずっと天化が来てくれるのを待っていた。 バカだよな。俺は天化になにを期待してたんだ？ 「王サマ……？」 しばらく、下を向いて黙ってしまった姫発を見て、天化が声をかける。 「どーしたさ？」 「え……」 「疲れたさ？それともどっか痛いさ？」 ばか。 お前、なんにも判ってねえよ―― そう思って天化の顔を見る。天化は不思議そうだった。きっとこう思ってるんだ。 これで元に戻れるのになんで王サマ元気ねーさ？ なんにも判ってねえよ。一度はそう思ったけど、そんなことはないんだって、そう思い直すことにした。だって、天化は俺のためにここまでしてくれたんだから。 得物を使って仙人さまを脅して、解毒剤を強引に手に入れてきた。 俺のためにそこまでしてくれたのは天化なんだ。それでいいじゃねえか？ これで男に戻ったらいつもどおりだ。それでいいじゃねえかよ――？ 「王サマ？」 でも。 「ごめん…天化、ありがとう」 姫発はぺこりと頭を下げた。しおらしい態度をして見せた。 「俺、お前にそこまでしてもらって、何にもお礼とか出来ねーし…」 「そんなのいいさ」 元は俺っちのせいだし。天化は笑う。いい顔だと思った。いい奴だよな。かっこいいよな。天化って。 「……ありがとう」 「…王サマ…」 もう一度頭を下げると、天化は姫発の名前をもう一度呼んだ。泣きそうだ、とか思われたかもしれない。 ありがとな、ホントに。俺のために。 だから――最後にひとつだけワガママ許してくれよ？ 姫発は顔を上げて、天化をじっと見た。怪訝そうな顔をする天化の襟をそっと掴んで引き寄せる。 え？と言うような天化の表情を見て、ふっと唇を重ねる。 姫発は天化にキスをした。 |
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