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「王サマ？もう結婚しちまったさ？」 姫発の格好を見て天化が言った。息を切らしている。きっとここまで走ってきたんだろう。 「え…まだだけど」 姫発は答えた。帰ってきてくれた。天化はちゃんと、帰ってきた。 「じゃあよかったさ」 ぐいっと姫発の腕をつかむ。来るさ、と促した。 「え、どこ行くんだよ！」 姫発の腕を引き戻したのは太公望だった。参列者はみな茫然として見ている。 「天化、悪いがお主に邪魔させるわけにはいかぬ」 「ぐもぐも」 太公望が懐から抜いた打神鞭を、神鷹はパッとくちばしにくわえて飛び立った。ああっ！！と太公望が上を向いた隙に、姫発を奪い返して天化は叫ぶ。 「いいから今の内に逃げるさ！！」 「え……」 掴まれた腕を引っ張られて、姫発は二、三歩と踏み出したが、やっぱりドレスに足をつかける。転びそうになって天化に支えられて、天化は姫発の足元を見た。 「王サマ、それじゃ歩けねーさ」 「しょーがねーじゃん！」 「…いいさ」 次の瞬間、天化は姫発を抱き上げた。ふわっと抱え上げられる。お姫様抱っこという奴だった。 天化は、たった今入ってきた教会の扉へ向かって走った。扉の前にたどりつくと、姫発の身体を支えている腕を離して、片手でささえて、離した手でドアノブを回した。 扉が半開きになる。すぐ閉まってしまうであろうそれを、天化は体で押さえるのかとばかり思った。 がん。 天化は豪快に扉を蹴飛ばした。姫発は天化の腕の中で呆然としたが、天化は構わずそのまま教会を出て、姫発を連れて走っていった。 「ここまで来れば誰もいねーさ」 そう言って、天化は姫発を地面に降ろした。そこで初めて姫発の着ているものに気づいたように、しげしげと眺める。 「王サマ…大変さね、それ」 「うん」 「王サマ」 「なに？」 「待たせてごめん」 「いいよ、まだ結婚してねーもん」 姫発は笑った。だってちゃんと約束を守ってくれたじゃんか――― 「王サマ」 「……なに？」 「コレ食えば元に戻れるさ」 「………はい？」 天化は姫発の目の前に杏を差し出した。 「やっぱブッ倒れると思うけど、俺っちが城まで運んでやるさ。半日で元に戻るから」 そうだ、俺っちが絶対なんとかしてやる、と言ったんだった。結婚式までに。 連れて逃げるとか責任とってくれるとか一言もそんな話はしていない。はじめから。 姫発は今更それに気がついた。教会から強引に（というか豪快に）連れ出されて、そのシチュエーションに引きずられて、別のなにかを期待していた。 それでいいと思ってしまった。 天化ははじめから、姫発が自分のせいで女の子になってしまったと思って気を遣ってくれた。 だから、結婚なんかしたくないと本音を吐いたら、絶対元に戻してやると思った……んだろう。姫発は思いめぐらす。 そうだ、それが当たり前だ。なのに俺はあの時なにを期待したんだ？ 最初から天化になにを期待してたんだ？ 「それ、どーしたんだ？」 姫発は別の話題に持っていこうとする。それ、と言って、天化が腰に差した二本の宝貝を指さした。莫邪の宝剣。一本しかないはずなのに。 「ああ…これ、コーチに借りたさ」 「え？」 「これ使って雲中子さま脅したさ。そしたら、あん時の杏が出てきたから、解毒剤作ってくれるって」 ちょっとだけ照れくさそうにそう言った。 天化はそこで、今日やっとここに戻ってこられた理由を説明してくれた。 解毒剤を作るのは、まず、女の子になってみないと始まらない。莫邪の宝剣の二刀流でもって、天化は雲中子に杏の種を強引に食わせて女性にした。やっぱり姫発と同じように半日寝込んで、女性化したところで、種の残りで解毒剤を作らせたのだ。 ちなみに天化が持ち込んだ武器は実は莫邪の宝剣だけではない。紫陽洞は打撃系宝貝にはこと欠かない。天化の師匠は事情を弟子から聞くと、人助けはいいことだ！と宝貝をたくさん貸してくれた。そこに雲中子に対する日頃の恨みといったものが入っているのかどうかは、神のみぞ知る。 「そんでやっと解毒剤が出来たから雲中子さまに食わせたさ。ちゃんと元に戻ったから、王サマも元に戻れるさ」 実験にはその場に居合わせた、というか偶然遊びに来た太乙が立ち会っている。経過報告を太公望に手紙で知らせたのは太乙である。 |
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