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「王サマ？」 姫発は、西岐城の屋根の上にいた。それを天化が見つける。 四不象に、屋根の上に降りてもらって、天化は姫発に駆け寄った。 「あ、……てんか」 「なんでこんなトコにいるさっ？！」 天化は怒鳴った。姫発は驚く。そんな…いきなり怒鳴らなくたっていいじゃん。 「アンタただでさえ足元危なっかしいのに、女の子で袴でこんなトコ座って……落っこちて怪我でもしたらどーするさ？！」 ごめん。 なんでだか最近謝ってばっかりじゃねえか？そう思いながら、口に出したのは別の言葉だった。 「怪我でもすればいいんだよ」 「はあ？」 「怪我したら結婚式延期になるじゃん」 「……王サマ……」 なあ、天化。 姫発は、座ったまま、立ちつくして自分を見下ろす天化を見上げる。 「お前、将来なんになりたい？」 「え？」 脈絡がない。いきなり何を言い出すのか。 「仙人とか、さ」 「……俺っち、仙人になりたいわけじゃ…」 天化は言われたことには答えた。姫発はそれを聞くと質問を変えてくる。 「じゃあ、今どうしたい？なんで修行してんだ？」 「……え……」 「強くなりてぇから」 「そーだよな」 「王サマ？」 「やりたいことやるのが一番だよ。絶対お前そうしろよ？」 道士で、強くなって。 「王サマ……？」 何を言っているのか天化には判らない。判らなかったから、さっきスースに聞いたことを、王サマに確かめようと思った。 「王サマ、結婚するって決まったさ？」 「うん」 「ホントにそれでいいと思ってるさ？」 息が止まるかと思った。 ダメだ、言ってどうする？こんなこと愚痴ったってしょーがねーだろ？俺は、王サマだったんだから。やらなきゃなんないコトってのはあって、太公望だってそうしろって言ってるんだから、ちゃんと立派な婿さんもらって、結婚して、それで。 「いいわけねえだろ！？」 叫んだ。 ちゃんと子供も産んで。周のために。 「国のために結婚なんかしたくねえよ！！」 涙が出た。 「どうしてくれるんだよ、全部お前のせいじゃねえか！！」 もう止まらなかった。溜め込んでいた思いを、全部吐き出してしまう。絶対言うもんかと我慢していた感情を、全部表に出してしまう。 「お前が杏仁豆腐なんか食わすから…女の子になっちまったから、お前のせいじゃねえかよ！！責任とってくれよ！！好きでもねえ奴と、国のために結婚なんかしたくねえよ！！」 「………王サマ……」 思いを全部吐き出してしまった後。姫発は死ぬほど後悔した。天化の顔を見て、俺はなんてコト言っちまったんだ――どうしようもなく後悔した。 「ごめん！天化」 頭を下げて、手をついて謝る。 「ひでえコト言ってごめん！お前のせいじゃねえから！！ぜんぜんそうじゃねえから！今のナシ！忘れてくれ！！」 なんでだろう――言いながら、涙が止まらない。 「ごめん……」 もう一度謝って、やっぱりそれも涙声になった。 しばらく黙っていた天化は、姫発のそばに来てしゃがみ込む。 「王サマ」 優しく呼ばれて、姫発は顔を上げた。天化の顔が間近にある。 「…ごめん、天化…」 ふっと、気がつくと両肩を掴まれた。 「王サマ、諦めることねーさ」 「え？」 「俺っちが絶対なんとかするから」 「………天化？」 「王サマが結婚しちまうまでに、絶対なんとかするから」 姫発は天化と目が合って、その真剣な表情に、何も言えない。 「だから、諦めねぇで待ってるさ」 「……うん」 ―――待ってるさ。 そういうのに俺はとことん弱い。姫発はそれを思い知った。 |
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