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「天化？」 姫発は、自分の部屋の扉の前で天化に会った。 「王サマ」 「どこ…行ってたんだよ」 「ん、一度家に戻ったさ。スースがここに泊まれって言うから、荷物取りに」 ここ、と天化は姫発の部屋の隣を指した。 「隣に…？」 「王サマにこれ以上なんかあったら大変だかんね」 けど、まあ女の子と同じ部屋には泊まれない。だから隣なんだろう。 「あ…そう」 天化。 姫発は声に出さずに呼びかける。 ………俺、結婚する奴決まったんだってさ。 声に出して言ったのは、別のことだった。 「頼みがあんだけど」 「頼み？」 「倉庫からさ、琴出して欲しいんだ」 姫発は笑った。笑うしか今の自分には出来ない。 琴？天化は聞き返す。 「王サマ、琴なんか弾くさ？」 「練習しようと思って」 倉庫に行って、埃をかぶった中から、あんちゃんの形見を出して貰った。あんちゃんが一番大事にしていた琴は、オヤジを助けるために、朝歌に行くって時に持っていった。 「やっぱさ、オンナノコだからさ、琴とか弾けたらいいじゃんか」 ふっと思った。あんちゃんがいてくれれば、こんなことにはならなかったのに。 「料理はお前に教えて貰って…そんで、そーゆー女の子らしいことも出来たらさ、きっといい嫁さんになれるよな」 誰に言うでもなかった。自分にそう言い聞かせたからだ。なんで天化に言うんだ？それはきっと、今さっき天化に会ったからだ。他に理由なんかない。 「そう思わねえ？」 「王サマ」 「……え？」 「俺っちは、王サマはそのまんまでもいいと思うけど」 一瞬、止まった。 そんな台詞吐くなよ？そーゆーの、世の中では殺し文句ってゆーんだぜ？ 天化は、琴を部屋まで運んでくれた。ありがとう、と姫発は頭を下げる。 弦を指先でいじって、座り込んだまま、姫発は顔を伏せた。 ふっと思った。あんちゃんがいてくれれば、こんなことにはならなかったのに。 |
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