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西岐城に戻ると、太公望は、再びファイルをめくり始める。 「…モグラでは話にならぬのう」 「ちょっと待て！なんの話だそりゃあ！！」 「ちょっとっ！！聞き捨てならないわねっ！！」 ばたん。豪快にドアが開くと、けたたましい声の主が姿を現した。 「え……」 姫発はドアを見る。服を貸してくれた蝉玉が威風堂々と立っていた。彼女はつかつかと姫発のそばへ歩み寄る。 「いい？！ハニーは渡さないからねっ！」 「いらねーよ！！」 「なんですってええ？！ハニーになんて失礼なこと言うのよっ！」 蝉玉は、今の姫発が同じオンナノコであることも忘れ、彼女の着物の襟をがくがくつかんで揺さぶる。 「太公望師叔、土公孫というのはあんまりじゃないですか？」 「まあ、そうかもしれぬな」 「だいたい彼には蝉玉くんがいるじゃないですか」 「それはどうかのう？」 太公望の一言に、蝉玉がこちらを睨んだ。 姫発の襟を掴んでいた手を離して、太公望をジト目で見つめる。 「アンタ…ハニーとアタシを引き離すつもり？」 「そんなつもりはないがのう。こういうのは本人の気持ちが一番だ」 「お前ら、俺を無視して話進めんじゃねーよ！」 花婿候補って言ったら他にもいくらでもいるだろーが！！そう言いたい。 「ハニーがアタシ以外の女にヨロメくわけないじゃない！」 「だから、それはどうかと言っておる」 「……え？」 太公望は、落ち着いてお茶を一杯飲むと滔々と説明にかかる。 「よいか？姫発の婿になれば、この西岐を……いや、周を我がものに出来るのだぞ？」 だからいいかげんな男は選べない。そういう理屈のはずだった。しかし太公望の論点はここに至って、微妙にズレている。 「…だから？」 蝉玉は訝る。なにが言いたいわけ？ ちっちっちっ。疑問をぶつける蝉玉の鼻先で太公望が指を左右に動かす。 「逆玉の輿としては、姫発の方がお主より格上ではないか」 「………」 既に軍師の言い分は蝉玉に喧嘩を売るだけの代物になっている。どうしてそうなったかと言えば、つまりは太公望がこの事態を面白がっているからだろう。 「なに言ってんのよ！ハニーが金や地位や権力なんかに惑わされるわけないじゃない！ハニーとアタシの愛はそんなモノで崩れ去ったりしないんだから！」 蝉玉は力説した。 完全に蚊帳の外に置かれた姫発は溜息をつく。 「なあ、楊ゼン」 「なんですか？」 「天化の奴、どこ行ったのかな」 |
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