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「米は洗うんじゃなくって研ぐモンさ」 「はあ」 「いいさ？王サマ、料理の基本は「さしすせそ」さ。「さ」が酒と砂糖、「し」が塩、……」 「……はあ」 「す」は酢で、「せ」は醤油で、「そ」が味噌。そんなことを天化は説明したが、姫発の頭にはろくに入っていなかった。 「あやつらは何をしておるのだ？」 「…料理の特訓みたいですけど」 軍師と天才道士は、厨房を覗き込む。 いいお嫁さんになるために、料理を特訓する。 それも視野狭窄な話だった。 姫発がこの流れでお后さまになったって、一国の王妃が料理なんかする必要はまったくない。 「ところで師叔、武王の婿取りは本気でどうするんですか？」 「おお、そうだったな」 太公望はぽんと手を叩いた。 「内々では話を通しておかねばなるまい」 太公望は姫発にそう告げる。 「内々、って旦だけじゃねーのかよ？」 「当たり前だ。武成王、南宮活、それに……」 指を折って周の要人を一人ずつあげていく。姫発は名前が増えるたびに溜息をひとつずつ増やした。 周公旦には昨日のうちに事情を説明してあった。突然の事態に、超ブルーになっている姫発が、弟の前に立ち、太公望が事情をかいつまんで説明した。曰く――杏仁豆腐を食ったら女になってしまったのだ。 周公旦は開口一番、兄（今は姉であるが）の顔を睨んで言ったのだ。 「なんでそんなおかしなものを口にするんですか？！」 厳しい口調で言われて、姫発は下を向いてしまった。 「ご、ごめん……」 謝らなくてもいい文脈で謝ってしまう。フォローしたのは太公望だった。 「違うのだ、こやつに落ち度はない」 「はあ？」 太公望は最初から説明し直した。そうすると周公旦は雷震子を呼びつける。雷震子が呼びつけられて大目玉をくらったのは、これで二度目になる。一度は天化が相手だった。 そんなこんなで――太公望と姫発は、武成王府に向かった。 |
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