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天化が自分に優しいのは責任感のさせる業だと姫発には判っていた。 判っていたから余計わがままを言いたくなった。だってきっと今の天化は、俺の言うことなら聞いてくれる。わがままを言っても聞き入れてくれる。 オンナノコだからだ。俺が、天化の作った杏仁豆腐でオンナノコになったからだ。だから――天化は俺に優しい。 オンナノコだから、町を歩けばナンパもされるし、ヘンなのに声もかけられる。そんな今日の出来事を思い出して、オンナノコになった当初の落ち込みがぶりかえす。 『………天化』 『ナニさ？』 腕を掴まれて振り返って、天化の顔を見たらどうしてだかひどく安心できた。 姫発は、今の自分の状況が天化のせいだとは思っていなかった。だからそれを責める気もない――なかったけど、それでもきっとまともに顔を見たら言ってしまうと思った。 お前のせいだろ、どうしてくれるんだよ！そう言えばきっとラクになれる。けど、言うのはイヤだった。だってそれはほんとに天化のせいじゃない。責任を感じて優しくしてもらったって、ほんとに嬉しいのとは違う。 何を考えてるんだろう。自分でも判らない。 俺はあいつに何を期待してるんだ？ 「王サマ」 バタンと景気よく遠慮なく扉が開いて、当の天化が現れる。姫発は、執務机から顔を上げた。後ろを束ねたリボンがちょこっと動くのが判る。 「天化…？」 ああひょっとして慰めにきてくれたとか？ そう思う自分がバカだと思った。だから何を期待してるんだよ？ 「なんだよ」 「メシでも作るさ」 「はあ？」 かなり突飛な提案に、姫発は面食らう。 「嫁に行くって言ってたさ？だから俺っちが料理の稽古つけてやるさ」 ………ああ。 そうだ、俺って婿とんなきゃいけねえんだよな――― 太公望がそんなことを言っていた。そうなんだ。 姫発は下を向いてしまった。けど、天化はそばに歩いてきて、姫発の腕を掴む。 「お前、メシなんか作れるのかよ」 なにかをごまかすように姫発は言った。天化はなんでもなく応える。 「俺っち崑崙で毎日メシ作ってたさ」 「……ああ」 「それに、ウチにいた時はおふくろの手伝いしてたさ」 「そっか……お前ん家、女きょうだいいないんだもんな」 それに、黄飛虎はあれで、バトルクッキングをやりだすくらいには料理の達人だ。そんな黄家の次男坊の天化が、俺にメシの作り方を直々に教えてくれるらしい。 まあ…… それはそれでいいのかもしれない。 |
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