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「どうしたのだ一体」 「わっかんないのよねー。ナンパされて、飛び出して行って帰ってきたと思ったら、ぜんぜん元気ないの」 城に戻った蝉玉は、太公望に今日の一件を報告した。横にいた楊ゼンが、どうしたんでしょうね武王は、と太公望にお茶を差し出す。 姫発は、部屋に戻るなり黙ったままで出てこない。 天化はお茶菓子を取りに行っている。 「ナンパされたのがショックだったんですかね」 「あやつがそれを言うか？」 太公望はお茶を受け取る。楊ゼンの見解を一言で切り捨てた。 今までの所業から言って、同情されるわけもあまりない。それは皆の一致した見解だった。 「なんかヘンなのに声でもかけられたのかしらねえ」 蝉玉はしみじみと呟く。そんなの女やってたら気にしたって始まらないんだからさ、そんな強気な見解を付け加えた。 「まあまあ、師叔…」 「？なんだ」 楊ゼンは、自分もお茶を口にしつつ、優雅に微笑む。 「武王がショックを受けても仕方ないかもしれませんよ？」 「お茶菓子持ってきたさー」 そこで天化が部屋に入ってきた。 「おお、天化。ご苦労であったな」 竹籠いっぱいに載せたお菓子を差し出されて、太公望はひとつつまんだ。天化は空いていた席に座る。 「で、楊ゼン。なんの話だったかのう」 「ええ、ですから、武王がナンパされて…まあそのあと、ヘンな男に声をかけられたのか、チカンにでも遭ったのか判りませんが、それでショックを受けても仕方ないんじゃないかと」 「王サマ、チカンされてきたさ？」 天化が口を挟む。勝手に話が進んでいるのを、自室でずぶずぶ沈んでいる姫発は知らない。 「わっかんないけど。ま、自業自得かもしんないわね。アイツじゃあ」 人間、普段の行いがモノを言う部分は確かにある。姫発は気の毒なことに、誰にも同情してもらえなかった。 「ええ、まあそれはそうかもしれませんが……けど」 「けど、なんだ？」 「武王は、最初女の子になった時ものすごくショックだったじゃないですか」 「まあ、当然だな」 「町に出てすぐナンパされたというのも、…そのあと何があったのか知りませんが、まあ、女性だからそういう目に遭うわけですよね」 「それはそうであろうな」 太公望はお茶菓子をもぐもぐと食べながら頷く。 「ですから、自分が女の子になってしまったと、そういう体験をすることで強く再認識させられるわけですよね？それがショックだったんじゃないですか？」 楊ゼンは自説を滔々と語る。ふむ……太公望は頷いた。 「お主、なかなか乙女心というものが判っておるではないか」 「当たり前ですよ師叔、この僕を誰だと思ってるんですか？」 天才道士楊ゼンは、崑崙でも人間界でも女性に絶大な人気を誇っていた。その僕が、女性の気持ちが掴めないわけないでしょう、彼はそう言っている。 がたん。 天化は席を立った。 「天化？」 「王サマの様子見てくるさ」 ばたばた駆け出して行った天化の後ろ姿を見送って、太公望と楊ゼンは顔を見合わせる。 「まあ…いいんじゃないですか？」 きっと慰めに行ったんだろう。この文脈ではきっとそうだ。 「そうだな」 |
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