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誰のせいでもない。天化のせいでももちろんない。 そう納得するしかなかったから、姫発は天化の顔をまともに見られなかった。 顔を見たら、きっと当たり散らす。天化が悪かったわけじゃないのに。当たり散らして、しまいには泣き出すかも知れなかった。そんなみっともない真似できない。 「戻らぬとなれば仕方あるまい」 しばらく沈黙が続いた。それを破ったのは軍師だった。 「え…どうするんですか？」 傍らにいた楊ゼンが、太公望の顔色を伺う。 このまま隠しおおせないと言ったのは太公望自身だ。だったら、正直に公表するのか？それは―― 「今まで隠していましたが、武王は実は女の子でした」と言ったら、周の求心力が絶対的に低下することは否めない。 「…公表するしかあるまい」 「本気ですか？そんなことして」 楊ゼンはらしくなく、ひどく慌てる。だが太公望は、なにか腹を括ったように見えた。 姫発は太公望をきっと睨む。どうするつもりなんだよ？！こんなんでみんなの前に出て行けっていうのか、お前？！ 姫発に睨まれて、太公望は溜息をひとつつく。すまぬな姫発。わしとてこんな真似をしたいわけではない。心の中で彼は姫昌の息子（今は娘だが）に詫びた。 もうひとつ大きく息をついて、軍師は姫昌の子を見据えた。 「ただし……準備を万全にしておかねば、そうもいくまいな」 「準備…って？」 ……なんだよ？ 消え入りそうな声で姫発は親代わりの軍師に問う。 「姫発よ」 太公望は、その名を呼んだ。姫発は緊張で体を固くする。どうする…ってんだよ？ 「お主には婿をとってもらう。その男に「武王」を名乗らせる。それしかあるまい」 「太公望……？」 ただ単に名前を呼んだというよりは、助けを求めているような。 姫発は口元をゆがめる。軍師をじっと見た。 耐えきれず目線をそらした姫発に、太公望は今度は、ひどく優しい声をかけた。 「すまぬな、姫発」 「太公望」 「こうするしかないのだ」 「……太公望……」 |
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