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「王サマ？」 一晩姫発の部屋で過ごして、明け方うとうととしてしまった天化は、意識を取り戻すとまず姫発の姿を探した。 「………」 ベッドにいない。治った…んさ？ 「王サマ？」 もう一度呼んだ。寝床に手を伸ばす。まだ温かい。 天化は部屋を見渡した。気配を探り、誰もいないことを悟り、廊下に出る。薄暗い中をあわただしく駆け出す。 ―――え？ 「誰さ？！」 びくっと、その後ろ姿が揺れた。ばたばたと駆け出してしまおうとする、その肩を掴んでこちらを向かせる。 「……っ……てんか、」 「え？」 彼女は――天化より幾分低いところから目線を上に上げる。「天化」と呼んでしまって、どこかそれがまずかったような、そんな表情を見せた。慌てて逃げ出そうとする彼女は寝間着一枚しか着ていない。その寝間着は袖も裾もぶかぶかだった。 どこか既視感のある面差し。天化はその感覚がどこから来るのか思い出そうとする。 「王サマ？」 脈絡はなかった。ただ、そう呼んだ。 「……ちっ、違う！」 「え」 「違う！！」 彼女は叫んだ。泣きそうな顔をしていた。それで天化は、彼女が誰か判った気がした。 だからもう一度呼んだ。 「……王サマ……？」 こくりと彼女はうなずいた。 「そんなバカな話があるわけがなかろうが」 太公望は取り合わない。目の前の彼女が、こともあろうに姫発だと言うのは――正直、そんなバカな冗談もない。 「でも王サマさ」 「天化くん」 天化の説明は説明にもなにもなっていない。楊ゼンはたしなめるように言ったが、天化は聞かない。仕方なく楊ゼンは、彼女をじっと見る。 彼女は顔を上げようとしない。 「あの……名前は？」 「………」 「この城の女官なんですか？」 「………」 彼女はなにも答えなかった。ずっとうつむいたままで、黙りこくっている。 「姫発」 太公望が呟く。彼女は、そこで初めて顔を上げた。太公望の顔を、縋るように見つめる。もう一度太公望は呼んだ。 「姫発なのか？」 「………」 こくりと彼女はうなずいた。 |
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