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姫発は――床に倒れていた。 「王サマ、王サマっ！」 天化は駆け寄って、膝をついて姫発のそばに座る。頬を軽く叩いたが反応がない。…というか、熱い。ひどく熱かった。 （…………？） 天化は姫発の額に手をやる。すごい熱だった。椅子から落ちたのか？天化は思わず、上を見上げる。卓の上に置かれた杏仁豆腐はほとんどそのままで、けどスプーンがない。もう一度床を見て、テーブルの下を覗く。そこに落ちていた。 一瞬で、ある考えにたどりつく。 （まさか、これ食ったせいさ？） 「王サマ！！」 べしべしと天化は姫発の頬を叩いて、肩をゆさぶった。やっぱり反応がない。 とりあえず天化は姫発を抱きかかえて、仮眠室のベッドまで運んだ。 布団のなかに体を横たえてやって、息をひとつつく。 それから、太公望を呼びに走った。 「これは……」 「なにか分かりましたか？」 太公望の言葉に楊ゼンがそう続ける。 「…ただの熱ならいいがのう」 太公望はそう言ってかぶりを振った。 姫発の熱は、夜になっても下がらなかった。医者にも見せたが、いまいち原因は分からない。ただの風邪ならいいが――けど、高熱以外、風邪らしいところはまったくないのだ。 「スープーに言って、雲中子を呼ぶか…？」 「それがいいかもしれませんね」 信用ならない点は多々あるが、仙人界の薬の効き目は人間界のものの比ではない。人間界の業で治らない病も、仙人界の力をもってすればなんとかなるものもある。 「王サマ……」 姫発の汗をタオルで拭き取りながら、天化はつぶやいた。 なんでこんなことになったのか。あの時まで王サマは元気だったのに。 俺っちがちょっと離れた時に。 「天化よ」 「……スース？」 天化は太公望を振り返る。太公望は、落ち着いた声音で天化を諭す。 「お主のせいではなかろう」 「けど、スース」 「外傷はない。なにか…投薬でもされた痕跡はない」 毒かも知れないとは最初に思った。けど、食事には毒味係がついている。おやつの杏仁豆腐は、他でもない、天化が作ったものだった。 あるいはなにか飲まされたのか――？それも考えないでもなかった。けど、今ここで、こうなった今、誰のせいだと追求しても始まらない。とにかく、姫発を元に戻すことが先決だった。 「うむ。とりあえずスープーを崑崙に行かせる」 「太公望師叔…僕も、なにか調べられるところがあるかもしれませんから」 太公望はそう言って部屋を出た。楊ゼンも太公望の後を追う。 「スース、楊ゼンさん」 「天化よ、お主は武王についていてやれ」 「天化くん、僕らで対処は考えるから」 バタン、と扉が閉まる音が、静かな室内に響く。 「王サマ……」 未だ意識が戻らない姫発の苦しそうな表情に、天化はもう一度つぶやくように言った。 |
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