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ハイテンション・ハイライト -----12-----
「シリアスのこと、どーすんだよ」 タクヤは直球を投げた。バカ兄弟がどうだってかまわない。けど首を突っ込んだ以上、タクヤなりにオチをつけなければこの話は終わらなかった。 あんなモン、見ちまったし。タクヤは最上階の出来事を思い出す。 キョーダイでって、ガイジンはスキンシップが多いってゆーからアリなのか。タクヤにはわからなかった。 「シリアスは――」 言いかけて一度、ワルターは黙る。ちょっとなにかを考えたような顔をして、彼は続けて言った。タクヤは黙って聞く。 「シリアスは、一度も私を撃たなかった」 「――………」 「だから、」 だからもなにも。タクヤは思う。悪太は弟をどう思ってるのか？ だけど悪太の気持ちを推測するのも話を最後まで聞くのも、タクヤにとってはまどろっこしかった。そんなのオイラには関係ない。 タクヤはもう一度花瓶を構えて、ワルターの頭を景気よくぶん殴る。ワルターは今度こそ撃沈した。若！とカーネルの心配そうな声がタクヤの後ろから聞こえる。 「ええい、さっきからなにをする！」 「あのさ、悪太」 タクヤの声のトーンがさっきまでと変わった。ちょっと迷うような問いかけに、ワルターも面食らう。 「なんだ？」 「お前、その…あの、」 「？」 最上階での出来事を頭の片隅に浮かべながら、タクヤは迷いながら問うた。悪太はオイラが見てたって気づいてた？どーなんだろう。 「なんだ、言いたいことがあるならはっきり言え！」 「それはこっちの台詞だっての！」 タクヤはベッドから枕を強奪した上で、ワルターに枕を押しつけて黙らせた。 そのまま窒息死させそうな勢いだった。本当にそれくらいの勢いだった。 「お前さっき寝るって言ってたろ？ホラ、オイラが楽にしてやるから寝ちまえっての！」 そうしてタクヤはワルターを強引に寝かせると、邪魔したな、と一言だけ言って部屋を出ていく。ばたんと勢いよく扉が閉まる音がした。カーネルはそれを確かめてから、もう一度主人の姿を確かめる。 ワルターは身体を起こし、タクヤが持ってきた貧相な花束を手に取った。 少しの間彼は、なにも言わずそれを斜めに見ていた。 タクヤは大使館内をすたすた歩く。どこへ行くでもなしだった。考えも無しに、廊下という廊下を適当に歩いていく。 「ほえ」 ぱたんと足が止まった。 「ここどこ」 大使館は広かった。行き先表示もなにもなく歩いていたら、タクヤは思い切り道に迷う。仕方なくタクヤはあたりを見渡す。とにかく1階に行って出りゃいいんだから、どこ行ったって着くだろう。そんな楽観的な思考で再度歩き始めた。そんなタクヤの背後から、声だけで誰か判る、聞き慣れすぎた声がする。 「どこに行くんですか、タクヤ」 タクヤは振り返る。 そこにはシリアスがいた。 話がありますと言って、シリアスはタクヤを、大使館の屋上へ導いた。 「今日は風が強いですね」 「そだな」 シリアスは風を受け、長い髪を押さえながら軽快な口調でそう言う。まるで昨日、なにもなかったようだった。 「兄上の様子はどうでしたか？」 「べっつに。いつもと変わんねーけど」 変わらないように見えたが、少しなにか違ったのかもしれない。けれどタクヤにとってはいつもと変わらないように見えた。だからいつもと変わらない接し方をした。 シリアスは一度も私を撃たなかった、と。 その言葉を伝えるべきか否か躊躇し、結局、タクヤはそれを告げない。 シリアスはタクヤの顔をじっと見る。探るような視線に、タクヤは若干のすわりの悪さを感じたが、シリアスはなにも追及しなかった。 「…そうですか」 穏やかな声で、シリアスはそれだけ言う。 シリアスとタクヤの間にあるのは、一メートルにも満たない距離だった。 シリアスはさっきから何も言わない。タクヤは少しだけ苛ついた。なんだよ、自分からハナシがあるって言ったんじゃねーかよ。 タクヤにとって、この沈黙は少々居心地が悪い。いつものタクヤはそんなことを気にしなかったし、気になったことはすぐ口に出すタチだ。だけど今回迷うには、迷うだけの理由があった。 聞いていいのか悪いのかタクヤは迷う。さっき悪太は、なんにも言わなかった。最上階でタクヤが見てしまったアレについて。 「どうしました、なにか言いたいことがありそうな顔ですね」 「…う」 タクヤの顔色を見透かすように、シリアスが笑う。一歩下がり気味、迷い気味ののタクヤに対して、シリアスはいきなり本論に入る。 「言わなくてもわかりますよ。私が兄上にキスしたのが気になるんでしょう。見ていたんでしょう？」 そこまではっきり言われてしまうと、どうしていいのかタクヤにもわからない。 「…やっぱガイジンってオイラたちとは違うんだよな！スキンシップとかがしーっとかぶちゅーって、よくテレビで映るもんな！」 どうしていいのかわからなくて、タクヤは我ながらワケのわからないことをまくしたてた。タクヤがこんな慌て方をするのは、短い付き合いの中でも珍しい。シリアスはそう思う。慌てたタクヤとは対照的に、シリアスはあっけらかんと、かつ落ち着いて冷静に答えた。 「いくらスキンシップでも、兄弟でキスするわけないじゃないですか。」 シリアスの答えに、タクヤは黙る。けれどタクヤは黙っているだけの性格はしていない。 「待てコラ」 「はい？」 「―それってマジってこと？」 あまり突っ込みたくないし、正直考えたくない次元に突入しつつあったが、ここまで来て、目の前で喋っている相手をスルーすることは出来ない。 タクヤの躊躇いがちな問いに、シリアスは微笑しながら軽やかに答えた。 「私は兄上が好きですよ」 あっさり答えたシリアスに、タクヤは黙る。沈黙したまま顔をしかめるくらいしか、タクヤに出来ることはない。そんなタクヤに、シリアスの言葉が続いて聞こえる。 「本当は言うべきではないと思ったんですが、でもどうしても言っておきたかったんです。でも兄上はたぶん本気にしてくれませんから」 「そりゃま、そーだろーな」 「弟よ、私もお前を愛しているぞ！で終わるでしょうね、間違いなく」 「どっちかっつーとそっちがフツーだから」 あの悪太を普通と表現する日が来ようとは、タクヤも思っていなかったが、どうしてもちょっと言ってみたくなる。けれどシリアスはタクヤの言葉を直接受けることはなく、淡々と説明を続けた。 「過分に緊張感を持たせれば少しは真面目に話を聞いてくれるかと思って、ちょっと誘拐してみたんですが。命の危険にさらされればさすがにいつものバカも出ないでしょうからね」 「おい」 「―なにか？」 誘拐の理由をさらっとのたまったシリアスの肩をタクヤはがしっと掴んだ。一気に脱力しながらも、タクヤは言う。 「……つまり、お前は実の兄貴に愛の告白をするためだけに、わざわざオイラたちまで巻き込んで誘拐事件を起こしたってのか？」 アナタを愛しています。 そう言ってみたかったから、誰もいないところへ呼び出す。ここまではよくある話だ。しかし今回のシリアスは、愛の告白をするためにひと一人誘拐して、ロボットを配置して妨害をしそうなメカを撃退した。 話だけ聞いているとまるでシャランラがやりそうなことだ（彼女は結婚まで一足飛びに行くし、そういう綿密な計画は立てないタイプではあるのだが）。 なんで悪太の周りにはこーゆーのばっかりなんだ、タクヤはちょっとげんなりした。 兄弟云々よりも、どちらかというと、今現在、タクヤは誘拐の動機の方を追求したい。 「そうですよ」 シリアスはあっさりと答えた。あっさりすぎて、あっけらかんとしすぎている。 シリアスは懐から小さなディスクを出して、悠然と語り始めた。 「これが誘拐計画の一連のシナリオです。本国にバレたらさすがにまずいですからね。情報統制には気を遣いましたよ」 シリアスはディスクをちらつかせながらさわやかに言う。 「もっとも、綿密なシナリオを練るまでもなく、あんな警戒心のない人を攫うのは簡単極まりないんですがね。それでも適当な廃墟ビルを探して壁に時限爆弾を仕掛けたり、いろいろ大変だったんですよ。邪魔が入らないように、シャランラさんもキャプテンシャークも事前に遠ざけておきましたし」 堂々としたシリアスの態度は、タクヤの目にはいっそ清清しく映る。力が抜けきったタクヤはブルーというよりグレーな気分になる。得意げに自分の計画を語るシリアスを、タクヤはジト目で眺める。挙手しながらぼそっと言った。 「シリアス、オイラもう帰っていい？」 「冷たい人ですね。兄上が実の弟に言い寄られて困っているのに、知り合いとして見過ごすつもりなんですか？」 「知らねーよ！つーか言い寄ってんのお前だろ！なに他人事みたいに言ってんだよ！」 「そうは言っても、私も本当のことは言えなかったんですよ。言ったら兄上が困ると思って」 |