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ハイテンション・ハイライト -----11-----
最後に見たのは、弟の寂しそうな笑顔。シリアスは悲しそうに笑っていた。 そのまま、自分の身体が宙に浮いた。 次に気がついたのは、メカの起動音。はっと目を覚ます。 がばっと起きた。ワルターは自分の手を見て、足を見て、無傷なことを確かめて、ようやくそこで声が出た。 「…生きてる」 『気づいたか、船長』 「キャプテン？！」 気がつくとワルターは、キャプテンシャークの掌の上にいた。ふっと上を見上げる。あの、ビルの最上階から落ちたわけだった。それで今生きているということは、つまりは、キャプテンシャークに助けられたということらしい。 少し離れた場所で、勇者達がエクセルギアと戦っていた。エクセルギアは残り少ない。エクセルギアは、勇者に対しては元々足止め用のメカだから、この期に及んで、キャプテンシャークが加勢する必要はないのだろう。 ワルターはキャプテンシャークに素朴な疑問をぶつける。 「キャプテン、本国にいるはずでは…」 『あんたが誘拐されたって聞いてな、急いで駆けつけてきたってわけだ』 「…そうか、すまんな。キャプテン」 ワルターはもう一度ビルの最上階を見上げる。黙ったワルターの上から、キャプテンシャークの声が降ってきた。 『船長』 「なんだ？」 『いったいどういうことだ？さっき、あんたを突き飛ばしたのは――』 キャプテンシャークの言葉を遮って、ワルターは言う。 「なにも言うな、キャプテン」 『船長』 「察してくれ」 『…アイアイサー』 「…若君ー！！」 下からカーネルの声がする。ワルターはそれに気づいて、ひょいっと下を覗き込んだ。ドランが停めてあって、そばにカーネルが立っていて、こちらに向けて手を振っていた。 「若君ー！ご無事ですか？！」 「おお、爺！私は大丈夫だ！」 「ワルター様、わたくしがいない時にこんなひどい目に遭われるなんて…シャランラ、ショックですわ」 一件落着後。 大使館内、自室のベッドに横たわるワルターの姿を見て、シャランラは目の涙を拭った。たかが爆弾が直撃したくらいで、骨折したとかそういうおおげさな話ではないが、それでも包帯がぐるぐる巻かれていたり膏薬が貼られていたりして、いちおう大事をとっている。 「あ、ああシャランラ…そんなに心配することはない、私は大丈夫だ」 「ワルター様、これからはわたくしが一生ワルター様をお守りしますわ。二度とワルター様をこのような目に遭わせたりしません。ワルター様の敵は、このシャランラが退治してみせますわ！」 シャランラは気合い十分、ガッツポーズを見せた。彼女なら本当にやるだろう。それが骨身にしみて痛いほど判っているワルターは、今更何も言わない。 「若君がご無事でなによりです」 「じーさん、この事件どうなるの？」 お子たち三人を代表して大使館まで（ドランに乗って）やってきたタクヤは、カーネルに案内されて、ワルターの寝室へ向かう。手には一応、花屋の店先で叩き売られていた貧相な花束があった。形ばかりのお見舞いだ。 「このまま不問に付しますよ。もともと極秘捜査でしたし、若君が戻られたのですから問題ありません」 誘拐当日夜、つまり昨晩の公務は、爆弾直撃による怪我でキャンセルすることになった。問題になったことといえば、そのていどだった。 「シリアスは？」 「若君は何も仰いません。ですから、なにもなかったことにいたします」 「…そっか」 話しているうちに、ワルターの寝室の前にたどり着く。カーネルはノックして、ワルターに呼びかけた。 「若君、よろしいですか」 そのまま返事を待たずに、カーネルは扉を開ける。 「おお、爺か」 ワルターは答える。カーネルを見て、そしてタクヤを見る。一瞬目があったと、タクヤは思った。 「若君、お加減はいかがですか」 「大丈夫だ爺、たいしたことはない」 「…シャランラ、私は少し休むことにする。すまぬが一人にしてくれ」 「そうですの？ワルター様、わたくしが子守歌を歌って差し上げますのに」 シャランラから錠剤と水を受け取り、薬を飲みながらワルターは言う。シャランラはワルターからコップを戻してもらい、不思議そうな顔をする。無邪気なシャランラの表情に、ワルターは困ったような声を出した。 「あ、あぁシャランラ…その…」 「シャランラ様、若君はお疲れでいらっしゃいます。ゆっくり休ませて差し上げるのも、シャランラ様のお役目かと」 カーネルが言う。執事の言葉にシャランラは納得したようだった。また気合い十分になる。 「わかりましたわ、シャランラ、けっしてワルター様のお邪魔はいたしません！」 そして彼女は、軽快な足取りで部屋を出ていった。 「ではワルター様、またあとで参りますわ！」 残されたのは、ワルターとカーネル、そしてタクヤ。タクヤはワルターを見る。シャランラには聞かれたくない話をしようっていうのか。 「若君、お休みですか」 「ああ爺、食事前に起こしてくれ」 「さようでございますか」 「ちょい待てっての！！」 タクヤの一瞬の思惑とは別に、ワルターとカーネルは本気でお休み体勢ばっちりだ。意味深な前フリもなにもあったものではない。というか本気でボケ主従だ（この場合タクヤはツッコミ担当だった）。 「おい悪太、オイラがせっかく見舞いにきてやったのに寝ちまうってのはどーゆーコトだよ！」 「見舞い？」 「ちゃーんと花だって持ってきたんだぜ、ホラ」 タクヤはワルターに花束を差し出す。花束と言うにも量が少ない、店先で叩き売られていた貧相な投げ売り品だ。ワルターは花束を見て大袈裟に手を振り、バカにしたように笑う。 「なんだその貧乏くさい花は。まったく、これだから庶民というものは」 「…うっせーな」 「花束というモノは、そこに飾ってあるようなモノを言うのだ。そう、そこにあるような、あの高貴なバラこそ、この私に相応しい」 ワルターは悦に入りながら、寝室に飾られたバラの花を指して言った。たくさん活けられた深紅のバラは、確かに、いかにも値段が張りそうだ。 タクヤは、バラの花を活けた花瓶を取りに行き、持ち上げてそのまま戻ってくる。ベッドで座っているワルターの前に、花瓶ごと差し出した。 「これ？」 「そうだ」 「あっそ」 抑揚のない声で呟きながら、タクヤは花瓶でワルターの頭を殴った。ワルターの頭に星が景気よく飛ぶ。そのまま動きが止まったが、ワルターはめげずにタクヤに向かって怒鳴る。 「なにをするか！」 「お前のどっこがバラが似合うんだっての、このバカ悪太！」 「なんだと？！」 「わ、若君…」 小学生レベルの口喧嘩がいきなり展開される。カーネルは呆れつつ、主人を呼んで諫めてみる。 タクヤとワルターのいがみ合いはそれほど長続きしない。いきなりそれを切ったのは、タクヤの方だった。 タクヤは花瓶を横にやると、いきなりワルターの服の襟を掴む。 「おい、悪太」 「……なんだ」 |