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ハイテンション・ハイライト -----７-----
「着いたぞ！」 とある廃墟ビルの前。タクヤたちを乗せたドランが停車し、タクヤが車の外に出た。 ビルの最上階から爆発音が聞こえ、壁が壊れたのが見える。 「な、なんだ？」 「見てタクヤくん、あそこ！」 驚いたタクヤに、ダイの声が後ろから呼びかけた。ダイが指し示す方向には、シリアスが乗っていた車がある。 一方で、ビルの最上階。タクヤたちからも目撃されたように、爆発で壁が吹っ飛び、ワルターは部屋の向こうへ飛ばされた。 なんとか起きあがったが、埃と塵がひどく、何度も咳き込んでしまう。気がつくと、壁にあった窓ガラスが割れたらしく、ガラスの破片が飛び散っていた。 ワルターは鋭利な破片を一つつかみ、足を拘束しているロープを苦労しながら切る。手は手錠だからどうにもならないが、歩けるだけでも違う。ロープを切ったワルターは、半分以上が崩れた壁面――そこは唯一、外界につながった場所だ――に近づいた。外をおそるおそる眺めると、自分の立っている場所がいかに高いか即座に理解できる。思わずワルターは後ずさり、床の安定性を確認しながらゆっくりと歩いていく。 爆発で壁はほとんど崩れていて、空がきれいに見える。太陽の位置と空を見て、まだ夕刻にはなっていないのだと、初めてワルターは知った。 ここはどこなのか。ワルターは再び下を見る。 遠く、地面が見え、そこにあったのは、金色のスーパーカー。 「ドラン？！……お子たちか？」 「兄上」 ワルターはその声に振り返る。そういえばペンダントは？さっきの爆風で飛ばされたのか。 「シリアス！無事だったのか？！」 弟の声に振り返ったワルターの横を、銃声がかすめる。 「…なに…？」 ワルターの前に立っていたのは、銃を構えた弟だった。 地上ではタクヤたちとカーネルが、シリアスの車の内部を調べていた。カズキが運転席に座り、機材を一通り確かめる。 「こりゃ変声機だな」 「ヘンセイキ？」 変換できなかったタクヤが呟く。カズキが説明した。 「テレビでよく出てくるだろ。音声を変えてお届けしていますって奴。あれだよ。こっちが受信だな」 カズキが受信のボタンをＯＮに切り替えた。 『シリアス？！なにがあったのだ！』 「「「悪太？！」」」 「わ、若君！！」 三人とカーネルの声がかぶる。カズキは、変声装置をオフにしたまま、送信用のマイクをＯＮに切り替える。 「――これで通じるはずだ」 いの一番に声を上げたのはカーネルだった。老執事は力の限り叫ぶ。 「わ、若君！！ご無事でいらっしゃいますか！！」 少しおいて、受信機から声が届く。 『カーネルか！？』 「若！お怪我はありませんか？！」 『カーネル、私は大丈夫だ！』 「そこにシリアスがいるのか、悪太！」 「おい悪太、なにやってんだよ！？」 「悪太！」 カーネルに続いて、カズキ、タクヤ、ダイの順に送信マイクに向かって話しかける。 『お子たちか？』 次の瞬間、銃声が響いた。受信機の向こう側で。そして通信がそれきり途絶する。 「若君！」 カーネルの悲痛な声。タクヤが、車の外に飛び出した。 『若君！ご無事ですか？！若君！』 「カーネル…？！どうした、聞こえていないのか？！」 ワルターの手錠は、シリアスの銃で鍵の部分を撃ち抜かれていた。 ワルターにはカーネルの声が聞こえるが、カーネルに何度呼びかけても通じていないらしい。こちらの声が届いていないのだ。 はっと気づく。手錠を持ち上げた。鍵の部分が撃ち抜かれ破壊された手錠。 「まさか、この手錠が…」 「そうです、兄上」 「シリアス…」 「その手錠が、兄上のマイクだったわけです」 シリアスは、今度は兄の手錠の鎖の部分に銃口をつきつける。そのまま発砲した。手錠の鎖は切れて、ワルターの両手は自由になる。 「タクヤくん？！」 飛び出したタクヤに、ダイが呼びかける。タクヤは振り返った。 「オイラ見てくるぜ！」 タクヤはビルにひとり突っ走る。カズキが運転席で呟いた。 「…まさか、シリアスが悪太を…？」 「そんな、だって兄弟でしょ？」 「若君！」 カーネルがタクヤを追って、ビルへと走ろうとする。そこでいきなり衝撃が来た。カーネルは倒れ込む。向こう側に見えたのは。 「―エクセルギア軍団…」 カズキが呟いた。エクセルギアは、シリアスの持ち物のはずだ。黒幕は本当にシリアスだということなのか？ 倒れ込んだカーネルをダイが抱えてきて、再度ドランに乗せる。エクセルギア軍団には、他の勇者達が対抗した。 タクヤだけが、一人階段を最上階へ向かって駆け上がる。 「…シリアス…？」 兄と弟は向かい合った。弟は兄に銃口を向ける。そして言い放った。 「あの爆風でも無事とは、さすが兄上ですね」 「なに？」 まさか。さっきの時限爆弾を仕掛けたのはシリアスだということなのか？ 「ですが、兄上にはここで死んでいただきます」 「…悪い冗談はよせ」 兄は弟の言葉を信じない。それだけ弟を信じているということだった。だが弟は、敢えて兄の信頼を突き崩してみせる。 「信じていないようですね。でも私は本気ですよ」 「シリアス！」 「私は昔から兄上が嫌いだったんです。ですから兄上も、私を憎んでください」 「私は、お前を憎んだことなどない！」 シリアスのことさら酷薄な声に、兄は真剣な思いで答える。だが弟は兄の言葉を鼻で笑った。 「本気で言ってるんですか？私が兄上になにをしたと思ってるんですか？私は兄上を騙して、殺そうとしたんですよ」 もはや遠い昔の話になったのかも知れない。レジェンドラの勇者を探索していた、あの時。度重なる失敗で、ワルターは父である皇帝から用済みとされ、レジェンドラ探索はシリアスに委ねられた。シリアスは兄を抹殺しようとして、結果、ワルターはお子たち三人の側に寝返ったのだ。その後もシリアスはお子たちと兄を抹殺しようと、宇宙で次々戦いを仕掛けた。だけどそれはもう終わった話のはずだ。 ワルターは叫ぶ。 「だが私たちは兄弟ではないか！私たちは分かり合えたのではなかったのか、シリアス？」 「―そういうことを平気で言い出すところが許せないんです！」 癇癪を起こすように、シリアスは発砲する。何度目か。だがそれは何度目であってもいまのところ威嚇で、弟は兄の身体に向けて銃を撃つことはしなかった。 「…シリアス…」 「私は兄上がずっと嫌いでした。今でもそうです」 言いながら弟は兄の表情を疑う。怒っている？困惑している？悲しんでいる？この人は今どんな気持ちなのだろう。 それとも以前もそうだったように、このひとは私を憎んだりしないのか。 それが許せない。 シリアスは自嘲気味に笑い、兄の顔を眺めた。 「どうしてだか、皆目見当がつきませんか？そうでしょうね、兄上には判らないでしょう」 「……シリアス」 ワルターは口の中で呟く。弟には聞こえないくらいの声で。 「いいでしょう、最初からきちんと説明しますよ。どうして私が兄上をここに呼び出したのか。そこから説明しますよ」 「私をここに連れてきたのは、お前なのか」 「今更ですね。でももう少し時間を選べばよかった。内部犯行に見せかけようとして、わざわざ寝室を狙ったのですが、どうしてそんな間抜けな格好で寝てるんですか、あなたは」 兄の寝間着を見てシリアスは呆れ気味に笑う。こんな深刻な局面ではあるのだが、ワルターの服は、緑にピンクのハートマークだ。こんな寝間着をまじまじと眺めてしまうと、緊張感が一気にマイナスに陥るような気がしてしまう。 「……これは私の趣味だ。ほっといてくれ」 「いいですけどね。兄上のセンスに今更文句をつけようとは思いませんから」 |