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ハイテンション・ハイライト -----４-----
再び、ワルターが捕らえられた廃墟ビルの中。 「ぶえっくしょん！！」 寝間着なので寒い。ワルターは何度も豪快にくしゃみをした。手錠をかけられた不自由な手で鼻をすする。なんとか脱出できないものか、さっきから部屋の中を這い回ってみた。手には手錠、足はロープで拘束されているから、動くと言っても、ひょこひょこと膝を進めるくらいしか出来ない。 ぐうううう、と空腹のシグナルである腹の音が鳴った。何度目か。朝、起き抜けに攫われたのだから、今朝から何も食べていない。目が覚めてからどれだけ時間が経ったのかも見当がつかなかった。寝起きのままだから、当然の如く、通信機はない。 「それにしてもカーネルはなにをしておるのだ。この私が囚われの身になっているというのに―」 ため息をつきながらワルターは不平を漏らした。次の瞬間、もう一度豪快にくしゃみをする。 もう一度鼻をすすって、ワルターは別のことを考えた。天井を見上げながら。 レジェンドラの勇者のことを思い出す。 「こんな時にキャプテンがいてくれたら…とほほほほ」 生来の王子である彼は、他人に全面的に助けられることについて躊躇や葛藤というものがない。あるとすればそれはお子たちに助けられる場合のみを指していて、それは彼の例外事項だった。 「そういえばこんな時にキャプテンはなにをしておるのだ」 そういえば―― ワルターは思い出す。そうだ、確かこの間、シリアスが言っていた。 『兄上。キャプテンシャークを本国へやってもいいですか』 『へ？なんでまた』 『レジェンドラの勇者の出力データを改めて解析してみたいのですが』 『んーまあ、いいのではないか？』 そうだ、確かシリアスがそう言っていた。 「仕方がない、私一人の力でここを抜け出すとしようか」 その方法は今のところ発見できていない。出来るとも限らない。だがワルターはそう思い定めた。もともと、やる気は人の百倍だ。 「ん…その前に」 ワルターはずるずると足をひきずって前進する。先ほど敵に教えられたトイレを目指した。確か部屋の右奥だという。 ずるずるとスローペースで進み、ようやくトイレの前にたどりついた。膝を上げて両足を揃え、床についた手を離して、バランスを崩さないように注意する。ジャンプして立ち上がろうと思った瞬間。トイレの扉のすみに、なにやら光るものを見つけた。 「ん？」 手をもう一度床につき、膝をもう一度ついて少し場所を移動する。手錠の両手で光るものを拾って、ワルターは床の上で正座した。両方の手の中で、拾ったものを広げる。 「ペンダントか…？」 どうやら中はロケットになっているらしい。どこかで見たような見ないような――ワルターはロケットの中を開けてみる。 「これは…」 中の写真を見て、ワルターははっとする。 「このペンダントは、シリアスの？」 間違いない。見覚えのあるデザイン、そして中に入っていたのは、父の写真。 シリアスが手放さず持っていた、ペンダントだった。 「シリアス…」 何故こんなところにシリアスのペンダントが落ちている？ 「まさか、シリアスもここに囚われているのか？！待っていろシリアス、この兄が必ず助け出してやるぞ！！！」 と、その前にと。 弟を救出する決意を固めた兄は、トイレで用をすませることにした。 キィィィィ。 スポーツカーのドランがブレーキをかける。謎のメカの襲撃を振り切って、アドベンジャーが撃破したものの、襲撃は一度ではすまなかった。二度三度と行く先々で同じように攻撃型ロボットに襲われ、そのたびドランはとにかく逃げた。主を乗せたままで、戦うことは出来ないからだ。気づけば、シリアスから渡された地図のポイントからは遠く離れてしまった。 「襲撃されたポイントは、ここと、ここと…」 「カズキくん？」 地図のデータを呟くカズキに、ダイが不思議そうな声を上げる。 「やっぱりそうだ。シリアスが送ってきた地図のポイントで、ことごとく襲撃されてる」 カズキは手でデータ画面を軽く叩いてそう言った。ダイが再びカズキを見る。 「え、どういうこと？」 「確か、カーネルの爺さんは大使館にいるんだったな」 「え、確か報告用のトランシーバーがそのへんに」 タクヤがカズキの言葉に答え、カーネルから渡されていたトランシーバーを指さした。カズキはそれを手に取り、電波を合わせていく。 「カズキくん、どうしたの？」 「カズキ、どーしたんだよ」 タクヤとダイはカズキの意図を読めないでいる。カズキは二人を見て、トランシーバーに目線を戻し、真剣な表情で言った。 「ちょっと試してみたいことがある」 共和帝国大使館でシリアスとお子たちの連絡を待つカーネルは、通信回線の反応を見て、マイクを手に取った。こちらの回線は、お子たちだ。 「若君は見つかりましたか？」 回線がつながった瞬間、カーネルは叫ぶ。カーネルの元には、ワルターの行方を知らせる連絡は何も入っていない。それどころか、誘拐犯からの要求も全く入らない。カーネルは苛立っていた。 『どうしました、若君は――』 カーネルの声がトランシーバーの向こうから聞こえる。カズキは、ひと呼吸おく。そして口を開く。 「じーさん、今まで黙ってたけどな」 『？』 「悪太を攫ったのはオレたちだ」 『なんですと？！』 「「えええええ？！」」 驚愕の声を発したのは通信回線の向こう側のカーネル。そして、カズキの傍らにいるタクヤとダイ。 勿論、タクヤにもダイにも、悪太を攫った覚えはない。今回に限っては。 「カ、カズキくん、どういうこと？」 「タクヤ、いいからこの設定で話引っ張れ。カーネルの爺さんを挑発するんだ」 ダイの問いを無視して、カズキはタクヤにトランシーバーを渡した。トランシーバーからは、カーネルの声が絶え間なく流れる。 『お子たち、まさか本当に若君を？！これ、答えんか！！』 タクヤはトランシーバーを手にして、カーネルの叫びをＢＧＭに、軽く咳をして呼吸を整える。 「じーさん」 タクヤは声のトーンを一段、落とした。カズキとダイ、そしてドランは、タクヤの動向を見守る。仲間に見守られ、タクヤは次の言葉を発する。 「今まで黙ってたけどな、悪太は実はオイラたちが預かってる」 『なんですと？！…お前たちの要求はなんだ！若は今いずこに？！』 「目的？そーねー…」 悪戯っぽい声でタクヤはぐふふふと笑う。さっきからメケメケ団モード全開、絶好調だった。 「ま、とりあえずカネかな。今からオイラが指定する場所に身代金百億持ってきな♪さもないと、」 トランシーバーの向こう側のカーネルが、タクヤの言葉を繰り返す。 『――さもないと？！』 「悪太をテレビに出せないくらいのとーーーーーっても恥ずかしい目に遭わせちゃうよん♪」 |