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ハイテンション・ハイライト -----２-----
大使館についたお子たち三人は、ワルターの寝室へ案内される。 上質の絨毯と家具、豪華な天蓋付きのベッドの備えられた寝室は、彼の出自の良さを表すハイクオリティなシロモノだった。 （※ちなみに天蓋付きベッドに本来あるはずのワルターの抱きぬいぐるみはシリアスが隠してしまったのでこの場に存在しない） カズキが顎に手をおいてしばし考え、浮かんだ考えを口にする。 「ここで誘拐されたってことは、内部犯行のセンが考えられるな」 「というかその通りでしょう。兄上の部屋には見張りも護衛もあります。それをかいくぐって、兄上を連れ出したとしたら、内部に協力者がいるとしか考えられない」 シリアスの見解に、カーネルが不安そうな表情で問う。 「シリアス様、やはりこの大使館内に裏切り者がいると仰るのですか？」 「ええ。考えたくはありませんが…カーネル、先ほども話したとおり、この件は極秘取り扱い事項でお願いします」 「承知いたしました」 「ちょい待ち、シリアス」 カーネルとシリアスの会話に、カズキが挙手して割って入る。 「なんですか？」 「悪太が誘拐されたのは内部犯行の線が有力なんだよな」 「ええ、そうです」 「それってどー見てもオレたち犯人なわけねーじゃん。なんでオレらがこんなとこ連れてこられなきゃいけないんだ？」 カズキは言った。 ワルザック共和帝国に、この日本大使館内に犯人が潜んでいるというのなら、自分たち三人が疑われる理由は全くない。タクヤたち三人が知っている大使館の人間は、カーネルとシリアス、そして誘拐された当の悪太しかいないのだ。 『私としては、あなた方が兄上を誘拐した可能性も捨てきれないと思ったのですが』 シリアスはさっき車中でそう言っていた。 けれど、これだけ内部犯行が疑われるシチュエーションで、タクヤ達に疑いを向ける方が無理があった。いくら、あらゆる可能性を考慮すると言っても。 カズキの論理に、シリアスはしばし黙る。やがて口を開いた。 「…そういえば、そうですね」 ぽんと手を叩きながら、ボケ倒すようにシリアスは言う。そんなシリアスの反応に、お子達三人組はずこーっと倒れこんだ。 「いや申し訳ありません、私としたことが…ですがこれもなにかの縁、兄上の救出に協力していただけませんか」 「まあ、いいけどな。どーせ暇だし」 カズキが言う。ダイが続けた。 「タクヤくんはどーする？」 「オイラもいいけど…つーか、シリアスってばボケすぎ」 「さすが悪太の弟ってトコだな」 脱力しつつも、シリアスの協力要請を受け入れたタクヤたち三人だった。 とりあえずタクヤたちは、ドランに乗って悪太を捜索することになった。 なるべく事を荒立てないように、穏便に―ということだったが、どうなるかは判らない。捜索の進展についてはシリアスの車と連絡を取り合うことにして、タクヤたちは呼び出したドランに乗り込む。 「そういえばキャプテンシャークは？」 ふと思いついたことを、カズキが口に出して聞いた。海賊戦艦キャプテンシャーク。悪太の勇者、ということになる。 「キャプテンシャークは、本国で出力データを調査中です」 シリアスが答えて言う。カズキに代わって、ダイが聞いた。 「悪太が誘拐されたってのは知ってるの？」 「連絡していませんし、するつもりもありません」 「なんで」 ここからまたカズキが受け答える。 キャプテンシャークに事情を話したからと言って、おおっぴらにあんな巨大メカを使って捜索するわけにはいかないのかもしれないが―― 「兄上を誘拐した連中の目的は、もしかしてキャプテンシャークかも知れません」 「キャプテンシャークを？」 「ワルザック共和帝国の人間なら、キャプテンシャークの存在は知っています。そして、兄上はキャプテンシャークの主です。兄上を人質に取って、キャプテンシャークの力を手に入れることが、敵の目的かも知れません」 「…なるほど」 カズキは頷いた。話がいきなり壮大になったが、理詰めにいって、考えられない話でもない。 「キャプテンシャークの力を手に入れれば、世界を手に入れることも不可能ではありません。彼のパワーは、単独であれば他の勇者を圧倒しますからね」 『では、敵は悪太の命と引き替えに、キャプテンシャークの力を我が物とするつもりであるということか』 そこで、スーパーカー形態のドランが話に加わった。 レジェンドラの勇者は主に忠義を尽くすのが使命だ。主の身に危険が及べば、手も足も出ない。 その可能性が高いから、キャプテンシャークには兄の誘拐事件を極力伏せておくつもりだとシリアスは説明した。あの性格を鑑みるに、主が誘拐されて、キャプテンシャークが黙って待っているとも思えない。 けれど、キャプテンシャークに無闇に動かれた方がシリアスとしては困るのだ。 「…ったくもー、しょーがねーヤローだな悪太は！！」 今まで黙って話を聞いていたタクヤがいきなり叫ぶ。ドランが主の声に応えた。 『主？』 「ドラン、悪太探しに行くぞ！」 『心得た！』 静寂の暗闇の中、ワルターはようやく目を覚ます。 「あ…」 何度か瞬きをして目を凝らす。朝の記憶は曖昧だった。いつものようにカーネルに起こされる代りに、部屋に誰かが入ってきて… がばっと跳ね起きて、きょろきょろとあたりを見渡した。ここは自分の部屋ではない。ワルザック共和帝国日本大使館でもなさそうだ。 薄暗く寒い、荒れた部屋。廃墟ビルの一室のように思えた。 「はっ、私は何故こんなところにいるのだ…ん？」 手元を見た。 手錠。 まじまじと眺める。改めて我が身を省みるに、ワルターは自分が寝間着のままでいることに気づいた。お気に入りの、グリーンの地にピンクのハートマークがあしらわれた寝間着だ。 そして足下を見ると、――両足をロープで縛られていた。 「これは…まさか…誘拐？」 レトロなアニメの演出よろしく、ワルターの頭上に『誘拐』の二文字が浮かんだ。 「どっしぇーーーーーーーーー！！！」 ワルターの叫び声が、廃墟の一室に響いた。 |