ある晴れた午後。姫発はゆっくりと目を覚ます。

さわやかな風と、涼しげな草原、まっさおに広がる空。寝入った時とまったく変わりなくて、春の日差しが穏やかに姫発の上に降り注ぐ。
向こうから声がした。
「王サマーー！」
あ、天化か。
姫発はきょろきょろと辺りを見渡した。どこにいるんだろう…目線が微妙に低いような気がするのは寝てたからかな？
「王サマーー！どこにいるさ？！」
ここにいるっての。ナンだよお前、どこ探してるんだよ…
天化が近くまで来る。手を挙げて答えようと思ったら、どうしてだか手が上がらないことに気付いた。
あ、あれ…？俺、まだ夢の中にいるとか…？
気がつくと、天化がそばに立っていた。
「ったく、どこ行ったさ？しょーがない王サマさね」
だーかーらー、ここにいるって言ってるじゃねえかよ！
そう言おうとしたのに上手く言葉にならない。
天化が俺を覗きこむ。



「なあ牛、王サマ見てねーさ？」



はい？



い、今こいつ……なんて言った？



「って言ってもわかんねーか…って、あれ？」

牛、ってなに？
牛か？あの牛か？食ったり牛乳絞ったりするあの牛か？
なんの話？なにからかってんだ天化の奴。
いや、天化はそういうコトは言わないような気がする。ていうか天化は思った通りのことしか言わない。見たモノを見たとおりにしか表現しない。
じゃあ牛ってなんだ？

天化はかがんで何かを拾った。見上げてみると、天化は、白くて長い布を持っていた。
そ、それもしかして俺のターバンか？
「これ、王サマのターバン…さ？」
うっわ、なんだそりゃあ！
俺はじたばた慌ててとりあえず声を出そうと試みた。天化、俺だってば！姫発！王サマ！

「モー」

自分で上げた声に茫然自失した。な、なに…今の…牛の鳴き声みてーじゃん…（汗）
「牛、どーしたさ？なんか用さ？」
いや、牛じゃなくて！で、でも俺牛なのかもしれない。今。
だって天化が牛だって言うんだから。
なんでだ？寝る前はちゃんと人間だったのに！なんで起きたら牛なんだ？！
――突然頭の中を巡った兄の訓辞。

『発、食べてすぐ寝ると牛になるって言うでしょ？ダメだってば』

そ、そんなアホな話があるかーい！！（滝汗）

そんなわけで俺は、必死になって、牛になる前、いや、寝る前のことを思い出そうとした。牛なんだけど人語で考えていると思う。いやもしかしてそう思ってるのは俺だけで、俺は今、牛語で考えてたりするんだろうか？ぶ、武吉ちゃんならきっと牧場でバイトくらいしてたから、牛語を解して、俺が姫発だって言ってくれるかもしれない。
そこまでひたすら考えに考えて、回想の世界に入る。
そう、寝る前。

「はー、いっぱい食ったあ！」
「王サマよく食べたさー」
俺はそこで欠伸をひとつした。
「ふあ…ねみーなー…」
「王サマ、食ってすぐ寝ると牛になるって言うさ」



自分で自分の体を見ようにもよくわからない。というかあまりの展開にどうしていいのかわからなくて、俺はとりあえず立ちつくしていた。ああっ俺人間なのに今四本足じゃん…（焦）
な、なんでだー？！天化が「食ってすぐ寝ると牛になる」なんて言うからじゃねーのか？！そうだ、コイツが悪い！！
豪快な責任転嫁を試みているまっさいちゅう。その天化は、気がつくと、俺の首にターバンを巻いていた。
連れて帰るつもりらしい。
「牛、行くさ！」
どうするつもりなんだろう。牛乳が出たら飼ってもらえるのかな…でも、きっと俺じゃあ、雄だよな…雄の牛って…食う以外どうするんだろう…畑で使って貰ったりするのかな…

う、うっわーーーーー！！（泣）

頼む天化、頼むからそおっとしておいてくれ！
しかしそんな叫びが届くわけがない。モーモーと俺がわめくと、天化は構わず引っ張っていった。

→２へ続く