タイムマシン 桜木みなと

「コーチよぉ……こーちょくちょく来てカメに怒られねぇさ？」
天化は駅のホームにしゃがんで、線路を伝ってきた道徳真君に手を貸した。
「なーに、迷惑かけてるワケじゃないからな！ときどき枕木踏み抜いてるだけで」
「それはすっげー迷惑だと思うさ」
「まぁいい天化！どーやら外ではこーゆー事態になってるらしい」
プラットホームに上がった道徳は、ジャージの腹からWJ31号を取り出した。くわえ煙草でページをめくる天化──…衝撃の事実へのリアクションは、王天君のときと全く同じだった。
「……女カのヤツ、ナニ考えてるさ？？？」
「マッタクだな」

「それでだ天化、莫邪の宝剣を貸してみろ」
「これかい？」
この宝貝はコーチの形見だ。本人に言われて貸さない法はない。だが道徳は受け取った莫邪の宝剣を、ムリヤリこじ開けてバラし始めた。
「あー！ナニ開けてるさっ？！」
「はははっ！見てろよ天化」

３時間が過ぎた。宝剣は既に原型を留めず、精密部品の山に分解されていた。
「とーとー壊しちまったさ……」
「………」

６時間後、ベンチで眠りこけていた天化が道徳に揺り起こされると、宝剣は元通りに組み上げられていた。コーチの鼻が上を向いている。
「一体ナニがやりたかったさ？」
手渡された宝剣を握って気合いを込める──何も起こらない。
「やっぱ壊したさ」
「これはこーやって使うんだ」
道徳は宝剣の柄を天化の鼻先に押しつけた。

「──え？！」

光が吹き出すはずの穴の中に、見たこともない──しかし見たことのある世界が広がっていた。既視感とでもいうのだろうか。
「タイムマシンだ。見えるだけだけどな」
「そんなモン、コーチに作れたさッ？！信じらんねーさっっ」
天化はもう一度宝剣を覗き込む。
「うぁ……」
映っているのは前回の歴史の、それも現在に当たる部分のようだ。……それとも何百回も以前に繰り返した歴史なのだろうか？
「コーチ！あれコーチさっっ……ナンかツノが生えてるさ！」
人相などは相当違うが、それでもハッキリと道徳と分かる。分かるというよりそうだと感じる。
「やっぱりそーか……するとあの八本足のは四不象なんだな？」
「カバっち！ナンてひでぇ姿にっっ」
紫陽洞師弟はギャーギャー騒ぎつつ、かわりばんこに宝剣を覗いた。
「天化！そんな戦い方するとツノが折れるぞッ」
「元始天尊サマ……そのハゲアタマにツノは間抜けさ」
「妲己なんか自前のツノでラムちゃんのコスプレしてんのになぁ……」（やりそう）
「コーチ、メーテルよりもそっちがいいさ？」
「あの格好ならビーチバレーができるじゃないか！」
「欺瞞はよすさ」
天化はタイムマシンで師匠の額にツッコミを入れた。
「オヤジと聞太師さ！！なんでオヤジだけ二本ツノさ？！」
「そっちの方がカワイイんじゃないかと誰かが思ったらしいぞ？」
「──ていうかどっから見ても鬼に金棒さ」
「お前の父上にしっかり伝えておこう！」
「あーた、オヤジの駅にも行ってるさ……？」
前回の歴史では、ヒトの頭のツノだけでなく、動植物の進化も違うようだった。
「雷震子はまたスゴいことになってるな！」
「コウモリってゆーより、ムササビ男さ」
雲中子が怪しく微笑みながら手にしているのは、不思議なズッキーニだろうか。
「あっ、楊ゼンさんがカエルに乗ってるさ！」
「犬とかはいない世界のようだな！」

同じようでいてどことなくズレた世界を見回った後、天化はふいに大人しくなって何かに見入った。
「──どうした天化？」
道徳が聞くと、突然膝を抱えて顔を埋めた。宝貝を握りしめた手が地面に垂れる。
「…天禄兄貴と天爵も……王サマがいねぇさ」
武王という王はいて、名前は姫発だった。優しくて立派でいい人だった。──でも、王サマとは別の人だ。
「そうか、人の命は一回きりなんだな……」
人間は生まれ変わらない。何度歴史が繰り返しても、一人だけしかあの人はいない。
「…っ……」
「泣いてるのか……？」
膝の間から泣き声がもれる。アスファルトに涙のしみが広がる。
「……王サマに、悪いことしたさ…っ」
「天化…」
「ちゃんと、……言ってから来ればよかったさ…」
「……」
「…ちくしょ……、ちっくしょー」
天化はいつまでも泣きやまなかった。道徳は後ろでベンチに腰掛け、細かく震える背中をずっと見ていた。

いろんなイミで成り立たないのは承知の助さ！なんですが、ウソのように滅びた世界のツノ生えた男の子、かわいかったよなーとずっと思っていたので（それが本音か）
黄飛虎、若いバージョンで二本ツノだったらきっとすっげーかわいいよね！