聞かせてよ愛の言葉を 桜木みなと

昼下がりの情事ってヤツだった。
二人とも服は着ていない。汗ばむくらいに体は熱い。
「…ん……」
「好きだ、天化……」
優しい声で囁かれて、天化は耳までカッと赤くなる。
「……！」
その様子にクスッと笑うと、姫発はもう一度耳元に囁きかけた。
「こんなコトまでしちまってんのに、『好き』っつったくれーで身構えてんじゃねーよ？」
「身構えてなんかねぇさ」
「天化……好きだぜ？」

ビクッ。

「──やっぱ緊張したじゃんか」
「誰がさ？！」
天化はこう見えても負けず嫌いだった。というか誰が見ても負けず嫌いだった。
「てん……」
「王サマ……好きさ」

…ドクン…

「アンタ今ドキッとしたさ？」
「してねーよっっ」
「なんでウソつくさ」
姫発の首に手を伸ばし、真っ直ぐに目を合わせて天化はつぶやく。
「大好きさ」

ドキン…！

「不整脈さ。王サマやっぱドキッとしたさ」
「………」
キスをねだるかに見えた天化の指先は、しっかりと頸動脈を捉えていた。
こんのヤロー……と姫発は思う。

「──愛してるぜ、天化！！」

今度は天化が固まる番だった。息をつめ、手を伸ばしたまま硬直する。
「どーしたんだよ、言ってみろよ？愛してるぜっ！！」
「す…好きさ！」
「そーかよ？オレは愛してるぜ。天化のこと」
ナンで臆面もなくそーゆーコト言えるさ！！そんなの連発するコトさ？！──天化はグッと歯をかみしめる。
「へーぇ？言えねーんだ」
「…くっ…」
どう見ても姫発は勝ち誇っていた──普通、言ってもらえなかったら悲しむセリフだろう。

「愛してるさッッ！」

天化は音量作戦に出た。別の意味で不整脈を起こした姫発は、新たな角度から反撃を試みる。
「天化って美人だよな！こんなプリンちゃん見たことねーぜっ！！」
「王サマそれ全然効かねーさ」
「──ナンだと？！」
「王サマこそいい男さ。俺っち完全に一目惚れさ！」
こうなると既にホメ殺しである。しかも何の戦いだったのか全然分からなくなっている。
「背だって高いし、脚長くってうらやましーさ！」
「オメーも腰とか細……」
「下ネタ禁止さ！！」
ズビシ！と頭にツッコミが入る。
「おい……シてる最中に下ネタ禁止って……」

「キライだ」
いきなり何を言い出したのさ？──思った通りを天化は言う。
「なにウソついてるさ」
あまりにも端的な切り返しだった。
「嘘じゃねぇ！！ワガママで自分勝手で向こう見ずなトコが大っきれーだっっ！」
「俺っちは王サマの弱いとこがキライさ？」

グサッ。

キライ合戦で泣きを見るのは姫発に決まっていた。言い出した時点でバカである。
「あー……そーやってすぐ傷つくんだからさ……やっぱ弱いさ」
「………」
「最初に言ったの王サマさ？」
姫発の額に天化は触って、長い前髪をかき分ける。
「王サマ」
「……好きだ」
「──っっ」
「キライか？」
「き…嫌いじゃねーさ」
「そうだよな。愛してんだもんな？」
「…─────そうさ」
「じゃ、両想いだなっ。続きやろーぜ？」
天化の指をぱっとつかんで、姫発は唇に押し当てた。

封神小説ファイル数では50越えてるんですが、先日気づいたことには、通算しても数えるほどしか「好き」ってセリフがないんですね（爆笑）
だもんで、思いっきり言わせてみました…一生分言ってしまったかもしんないよ…